国登録文化財を巡る 天浜線の旅
天竜浜名湖鉄道(愛称・天浜線)の前身は国鉄二俣線。この二俣線が全通したのは昭和15年(1940年)、その後国鉄民営化の昭和62年(1987年)に第三セクターの天竜浜名湖鉄道に移管されている。二俣線は戦争で東海道本線の鉄橋や施設などが攻撃されて不通となった場合を考えたバイバス線として建設されている。東海道本線の掛川を起点に遠州森や天竜二俣を経由して浜名湖北部を回って新所原に至る全長67.7kmの非電化路線。エリアは掛川市・森町・磐田市・浜松市・湖西市にまたがり、小ぶりのディーゼルカーが1両でコトコト走っている。天浜線には国鉄時代からの古くて味わいのある駅舎や施設が数多く残り、大切に使われていることから、平成22年(2010年)12月に全線が国登録有形文化財に登録された。
バラエティ豊かな駅舎利用の食事処
今回は、明日の飯田線秘境駅巡りをする前に、掛川から西の終点新所原まで、茶畑や浜名湖を車窓に2時間の景色を堪能することができた。東京を10時3分発のこだま号で出発、静岡で別のこだま号に乗り換えて掛川に着いたのが定刻の11時43分。JR掛川駅は新しい木造駅舎が目を惹く新幹線の駅でもある。隣接する天浜線の掛川駅はのんびりとしたローカル色豊かな駅だ。慌ただしい日常を逃れて旅するローカル線としては首都圏や名古屋・関西方面からは比較的便利なロケーションに位置する路線といえる。 天浜線の楽しみは駅弁ならぬ「駅メシ」の存在だ。これは駅に併設された食事処で、遠江一宮と二俣本町のそば処や浜名湖佐久米の喫茶店、新所原のうなぎ専門店などの駅で「駅メシ」が味わえるから、お気に入りの食事処で「駅メシ」を楽しむのも一興というもんだ。
「遠州森町」の名を広めた幕末の侠客「森の石松」
掛川を11時58分に出発した列車は、掛川市街から長閑な田園地帯を走り、しばらくすると「森の石松」で名高い「遠州の小京都」とも言われる森町の玄関駅遠州森に到着する。車窓には畑や田んぼの景色がゆったりと流れていく。 やがて乗り換えの天竜二俣駅に、構内では登録有形文化財に指定された転車台と扇形車庫が現役で活躍し、土休日を中心に一般公開されている。次の西鹿島駅では、地元住民からは赤い車体であることから「赤電」と呼ばれ親しまれている電車が走る遠州鉄道と合流する。この駅は浜松への乗換駅で、遠州鉄道と組み合わせて、浜松周辺の多様な鉄道旅行がプラニングできそうだ。フルーツパーク駅を過ぎて、これも有形文化財のひとつである都田川橋梁を渡って森の中を走れば、まもなく金指(かなさし)に到着する。この駅のホームも古びた屋根があり有形文化財のひとつになっている。
浜名湖特産品の三ケ日みかん
やがて江戸時代の姫街道ゆかりの氣賀(きが)の町を抜けると、ふいに浜名湖が車窓左に広がる。東海道新幹線の車窓から見慣れた浜名湖とは違って、どこか長閑なひなびた風情だ。その豊かな景色もローカル線の醍醐味と言える。浜名湖佐久米は、湖岸にある小さく静かな駅である。冬場はユリカモメが飛来し、駅長さんが餌付けをする時間帯には群れが大挙押し寄せる。天浜線の風物詩ともなっている。線路が、水辺をかすめるたびに浜名湖に反射する日の光がキラキラと車内に差し込む。思わず列車を降りて湖を巡る周遊道を散策したくなる衝動に駆られる。更に水辺をコトコト走った列車はみかんの産地として知られる三ケ日(みっかび)に到着する。ここは天浜線の主要駅のひとつだ。かつての駅事務所を古き良きアメリカンスタイルの洒落たカフェに改装したお店になっている。
新所原駅併設の生産者経営のうなぎ専門店
列車は湖を離れて西の終点新所原へ。愛知県との県境に位置し、東海道本線の新所原駅に隣接して天浜線の駅がある。小さな駅舎内で目立つのは、改札口にある「駅のうなぎ屋」さん。浜名湖といえばうなぎ、お昼ご飯は車内で済ませていたので夕食用にと「うなぎ弁当」を注文した。なんでも生産者が営むうなぎ屋さんで、店長が十分吟味した本物の地元うなぎを提供している。もちろん店内で食べることも可能である。これから東海道本線蒲郡方面、飯田線本長篠方面に予定があるため、掛川には戻らず、いまどき珍しい新聞紙で包まれた「うなぎ弁当」をバッグに放り込んで慌ただしく天浜線の旅は終わった。
2016/4/10(日)
駅一覧
掛川駅―※掛川市役所前駅―西掛川駅―遠江桜木駅(桜木駅)ー※いこいの広場駅―細谷駅―※原谷駅―戸綿駅―遠江森駅(遠州森駅)―※円田駅―遠江一宮駅―敷地駅―野部駅(豊岡駅)―上野部駅―遠江二俣駅(天竜二俣駅)-二俣本町駅―西鹿島駅―岩水寺駅―宮口駅―※フルーツパーク駅―都田駅―※浜松大学前駅―金指駅―※気賀高校前駅―気賀駅―西気賀駅―一寸座駅―佐久米駅(浜名湖佐久米駅)―東都筑駅―都筑駅―三ヶ日駅―※奥浜名湖駅―尾奈駅―知波田駅―※大森駅―※コスモ前駅―新所原駅
カッコ内は天竜浜名湖鉄道転換後の新駅名。※印は天竜浜名湖鉄道転換後の新設駅。
※ 「赤」の駅は硬券と駅スタンプが表示されています。「青」の駅は駅スタンプのみです。