上場廃止の主な理由
2011年に入りMBOの発表が相次いでいる。MBOといえば敵対的買収騒動の2005年に知ることになったが、その後は一定の水準をキープしながら「経営の1つの手段」として認められている。親子上場の批判の高まる中でのグループ再編と銘打った株式交換などによる完全子会社化も増加した。
2月7日現在、今年中に上場止見込みを発表している企業は12社。1社は上場基準に抵触しての退場だから別として、残り11社は自らの意思で上場廃止に踏み切る。その内7社もがMBOだ。
その背景として、一般的には上場維持コスト負担と意思決定スピード向上が大きいとされている。確かに、上場企業であることは信用面などで大きなステータスになることは事実だが取引所などに支払う上場管理費の負担も少なくない。さらに投資家に向けてのIR(投資家向け広報)活動費用も増加傾向にあるようだ。
投資家にも責任あり
景気低迷、企業業績の悪化、それに伴う株式市場全体の低迷も相俟って各企業の業績が低迷するとステークホルダーである投資家からのプレッシャーも強くなる。
重要なのは経済環境が不透明な時代、これからの再成長に向けた戦略を立てるには投資家の目が気にならない非上場の方が思い切った事業再構築やリストラなどもやりやすいのは事実だ。
MBOは上場廃止になる代わりに売り出している株式をある程度のプレミアムをつけて株式を回収するのだから株価が安いときの方がやりやすいという側面もあるだろう。
1例として私が40年の長きにわたり携わっている基幹業務パッケージソフト開発と同じ業態のワークスアプリケーションズが1月31日の取引終了後にMBOの実施を発表した。この会社はかってジャスダック市場の中核銘柄だったが、民間企業業績の悪化を背景としたIT投資抑制のあおりをもろに受けてここのところ成長力が鈍化していた。
MBO発表直前の株価は3万台と低迷、過去には株価が20万円ちかくまで上昇していたから随分と安い水準だ。MBOの価格は5万5000円、発表直前の1月31日終値から37.5%を上回る水準だ。
しかし、最近株式を購入した投資家はいいが、過去に高値近辺で購入した投資家は株価が元に戻ることは適わず気の毒と言わざるを得ない。
また、幻冬舎のように投資家(イザベル・リミテッド)と企業側が争うケースもあった。昨年の10月にMBOを発表した出版社の幻冬舎は、MBO発表後に投資ファンドが買い増ししたことにより、買い付け価格を引き上げるなど対応策に追われているようだ。
MBOを市場関係者は悪というが・・・
上場を廃止することにより、投資家から見れば投資の機会が奪われてしまうわけだから、上場廃止を自ら選んで退場することに対して「絶対許される行為ではない」と厳しい見方をする市場関係者もいるようだ。
確かに、上述のようなケースもあることだから安易なMBOの多発は投資ファンドの介入やMBO後の訴訟など、トラブルを招く可能性がある。そのようなリスクを侵してまでMBOを選択するには企業としてそれ相当の事情が存在するからだろう。
株主総会にも問題あり
2度の商法改正により総会屋といわれた特殊株主はその活動や著しく制約されている。改正以前は企業の担当者による総会屋対策が行われているシャンシャン総会も感心できないが、昨今の開かれた株主公開は企業側も大変だ。
数時間が当たり前、終了後には休憩を挟んで会社説明会を設ける企業もあるから社長は特に大変だ。
私事だが昨年の12月17日に株式会社サイバーエージェントの株部総会に出席した。当日は500名近くの株主が出席、業績も立派で藤田社長の手腕を高く評価している1人だけにこれからの見通しなどを身近に知りたくて参加した。
だが、始まると総会や会社説明会での質問は気の毒になるほど厳しいものばかりだ。なかには枝葉末節などうでもいい質問もあり、藤田社長!良く耐えているなというのが正直な気持ちだ。これでは業績が悪かったらどうなってしまうのだろう。
投資家として真剣な気持ちが理解できるが業績が善いときはお褒めの質問があってもいいのではないか。藤田社長本人自身が大株主だけに察して余りある。(最も、皮肉を交えて私も株主の1人ですと精一杯抵抗していたが・・・)
愚痴の1つも言いたくなる ーわかるよその気持ちー
その夜、藤田社長が株主総会を振り返り思わず社長として「耐える肝」が必要だとTwitterでつぶやきながら、やけ気味に高級ワイン?を痛飲したのを妙に鮮明に覚えている。
どこの創業社長もワンマンであるからこんなことが原因でMBOを実施する社長もいるかもしれない。
それどころか、未上場の優良企業の社長が、業績が悪いのならいざ知らず、好業績でもこのように株主総会でさらし者になるくらいなら「俺は嫌だ」と上場をすることを躊躇する社長がいないとは限らない。
チト心配だ。